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東京地方裁判所 昭和35年(ワ)1854号 判決

原告 タマ化成株式会社

右代表者代表取締役 丹野邦威

右訴訟代理人弁護士 小川契式

被告 ホウオウ電線工業株式会社

右代表者代表取締役 松浦英男

右訴訟代理人弁護士 石川義郎

主文

被告は原告に対し金二十五万三千百円並右に対する昭和三十五年三月十三日から完済に至る迄年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

此判決は原告に於て金五万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

按ずるに証人鈴木福寿の証言右証言により成立を認め得べき甲第一号証第二号証の一乃至四を綜合すれば訴外東光電機株式会社(以下訴外会社と略称する)は昭和三十三年九月十七日フイーダーコード買受代金の前渡金として金五十万円を支払い被告は之を受取り右商品は時価により右訴外会社に分納し昭和三十四年九月末迄に完納する旨を約したところ其後被告は昭和三十四年六月十日迄の間に右訴外会社に対し代金二十二万八千円に相当する商品を納入し尚代金二十七万二千円に相当する商品が未納であつたことを認めることができる、被告は右契約の売主は訴外ホウオウ電線株式会社であつて被告でない旨主張するけれども前記各証拠に証人杉浦ツネの証言の一部を綜合すれば従来右訴外会社及其代表者の鈴木福寿は訴外ホウオウ電線株式会社と右商品の取引を継続していたところ当時被告会社が設立され、其営業を開始しており(但し其設立登記がなされたのは当事者間に争のない昭和三十三年十一月十九日である)本件取引は其取締役の訴外松浦ツネが之を代理して原告と契約をなし其後の納品も全部被告よりなされたものであることを認めることができ、此点に関する証人松浦ツネの証言は信用し難く其他前記認定を覆すに足りない。而して証人鈴木福寿の証言に成立に争なき、甲第三号証を綜合すれば訴外会社は昭和三十四年六月一日右売買に於ける買主としての一切の権利を原告に譲渡し同年七月十二日到達の内容証明郵便を以て被告に其旨の通知をなしたことを認めることができる(右通知の事実は被告の認めるところであり其通知をする迄に被告より更に代金一万八千九百円に相当する商品の納入が訴外会社にあつたことは原告の認めるところである)其後原告は昭和三十四年十一月二十七日到達の内容証明郵便を以て被告に対し前渡代金残額金二十五万三千百円に相当するフイーダーコードを同書到達の日より十日以内に原告へ納入すべく若し右期限迄にこれを納入しないときは右前渡代金残額に対する右商品の売買契約を解除する旨の催告並条件付契約解除の意思表示をなした(右通知の事実は被告の認めるところである)ところ右期限内に被告が其債務を履行したことに付ては被告に於て主張立証しないところである。

而して売買契約に於ける買主たる地位の譲渡は売主の承諾を要するが本件に於ては前記の如く買主たる訴外会社の地位は既に其代金全部支払済で何等債務を負担せざるものであるから右の如き場合は指名債権譲渡の規定に準じ特約なき限り売主たる被告の承諾を要せず之をなし得るものとするを相当とし原告は買主として契約解除権を有するものであるから本件契約は前記期間の満了により有効に解除され原告は被告に対し其残代金二十五万三千百円に対し返還請求権を有するものと言わなければならない被告は仮に右債権が譲渡されたとしても其金額は金十四万五千五百円に過ぎない旨主張し証人鈴木福寿の証言により成立を認め得べき乙第三号証の一成立に争なき乙第三号証の二によれば訴外会社は昭和三十四年九月頃右原告に対する譲渡債権の額を一方的に金十四万五千五百円に減額し当時其旨を原被告に通知したことを認められるけれども右の如く債権譲渡の通知のなされた後になされた譲渡人の処分行為は原告に対抗し得ざること当然であるから右被告の主張は採用することはできない次に被告は訴外会社は昭和三十三年十二月初旬頃前渡金返還請求権を放棄した旨の主張は本件売買契約の売主が訴外ホウオウ電線株式会社であることを前提とするものであるところ前記認定の如く右売主は被告であること明らかであるから右主張は此点に於て失当なるを免かれない然らば被告は原告に対し右前渡代金残額金二十五万三千百円並右に対する記録により明らかな訴状送達の翌日たる昭和三十五年三月十三日から完済に至る迄商法所定の年六分の割合による損害金を支払う義務があるから本訴請求を認容し訴訟費用に付民事訴訟法第八十九条仮執行の宣言に付同法第百九十六条を通用し主文の如く判決する。

(裁判官 池野仁二)

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